韓国、ブログ、行政訴訟

4月はインターネットでうろついてなかったので、読み落としてましたがとんでもない記事です。

裁判所に行かず、インターネットで裁判を
APRIL 03, 2006 03:00

「裁判を受けに裁判所に行くのは、どうも億劫で負担だ。裁判もブログ(blog)やホームページのように、簡便で楽しくできないものか…」
このような想像が現実となる。

4月末から「ブログ」と「インターネット掲示板」による裁判が初めて実施される。
(中略)


最高裁判所とソウル行政裁判所(裁判長=李宇根)は2日、ソウル行政裁判所の行政11部(部長判事=金尚遵)を「ブログ裁判」モデル裁判所に指定し、優先的に産業災害関連の行政訴訟をモデル運営することにしたと明らかにした。
今回施行されるブルログ裁判は、本格的な裁判に入る前の「準備手続き」に限って適用される。民事訴訟法の関連規定が改正されれば、訴状の提出、訴訟費用の納付、判決文の送逹まで訴訟のすべての手続きを「ブログ」でのみできるようにする方針だ。
(後略)

東亜日報サイトより。省略は引用者による。)http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2006040323708

今ちょうど「主張の規律」について予習しているところなのですが・・・ブログと掲示板で訴訟進行なんてほんとにできるのか、という驚き。現時点では準備手続に限定されているとはいえ、将来的には全過程を適用対象にするようですから・・・。


しかし、もうひとつの驚きは、この計画の「モデル運営」が行政訴訟(産業災害関連)で行われているということ。これはどういう趣旨なんだろう。被告が国だから了解を得やすい、ということなのか、それとも韓国における行政訴訟の位置というのが日本のそれとは大きく異なっているということなのか*1。どう思われますか?読者の皆さん。


追記:これを機会に、行政訴訟に対する意識の違いや、アクセスの比較を勉強してみたくなりました。ドイツ、フランス、アメリカに限らず、アジア諸国とも。何かよいテキストがあればご教示ください。


追記その2:省略しすぎて当該記事での理由付けを読み落としていました。保全引用。

行政裁判所では勤労福祉公団、公務員年金管理公団など公共機関を相手にした訴訟が多い。このような各機関は大部分似たような内容の訴訟をしたりされたりしているが、すべて別々に進行している。
しかし、これからは専用ブログを通じ、訴訟全体を管理することができる。個別事件については、ブログ内の掲示板に何回かの返答書類を載せることで裁判を進めることができるようになる。

ブログには掲示板だけではなく、スクラップブックやサイバーオフィスなど、一般的なブログで見られる多様な機能(メニュー)が提供される。

個人が当事者になる訴訟には、簡単な「掲示板」だけが提供される。当事者は裁判期間中、この掲示板に本人の主張を盛り込んだ文を掲載することができる。

なお、このあとには「紙が節約できる」などが続きます・・・。
別々に進行する同種訴訟を一括管理することと、インターネットは論理的には直結しないので、紙の節約っていうのが根拠として重要な価値を持つのかしらん・・・。


ただ、行政が同種の訴訟を提起されている場合に、訴訟進行の「無駄」*2をどうしたらよいか、という論点は確かにあるでしょう。が、それは訴訟物、既判力、そして複数当事者訴訟における訴訟追行の規律の民事訴訟理論の一般論と調和的に考えるという前提のうえ、いかなる制度構築をするかは大変な難問のはず。*3それを「ネットで進行できれば」と考えてしまうと、なんだかとんでもないとこから議論がひっくり返されたような気がしないでもない・・・。

*1:台湾における行政訴訟の実情を伝えるものとしては、木佐茂男先生のブログの過去記事http://tabushi.cocolog-nifty.com/platz/2005/07/no36_3dc9.htmlが参考になります。

*2:もっとも、相手方からすればまったく別の話のはずで、それを「無駄」と言っていいのかどうかは抵抗があるので、あえて「」で囲んでみました。

*3:これにつき、関連する議論として「団体訴権」についての立法論(法学教室305号(2006)2〜3p、野々山宏「Key Word 団体訴権」を参照しています。)がありますが、まだフォローできてないです・・・。もっとも、団体訴権論で主に言われているのが消費者団体のことのみであるならば、韓国で想定されている訴訟とは次元・事案がまったく違うのかもしれない。むしろ選定当事者の問題か?うーん、整理しきれてないですね、結局。