条文から学ぶ行政救済法

条文から学ぶ行政救済法

条文から学ぶ行政救済法

paco_q先生が早速塩野先生の行政法Ⅲについてのコメントを書いていらっしゃいますが、組織法をキチンと学んでない自分はおいおい参考にさせていただきながら同著を読むとして、先に個人的に待ちに待っていた*1こちらの紹介をしたいと思います。*2

待望の行政救済法の「参考書」

はしがきでも述べられているとおり、本書は入門的テキストです。しかし、その意味合いはこれもまたはっきりとふれられていますが、基本書とも予備校本とも違うところにあります。

法科大学院での現状では、いわゆる法学既習者でも学部で行政法をまともに学んでいない院生が大半であると推測される(はしがきvp)

という至極正確な現状理解に立ち、

実務法曹にとってもっとも重要であるのは「通説」ではなく、「判例」である。そして「判例」より前に「条文」がある。(はしがきvp)

という認識のうえ、さらには構成上の工夫(民法不法行為法に近い国家賠償法からはじめる、とか)も、徹底的に法科大学院生(と学部生)の自習に適するように、というユーザー視点の一冊になっています。

条文、判例抜粋、そして見取り図

と、ここまで著者の見解・触れ込みに乗って話をしてきましたが、実際に中を開いて見ましょう。基本的な構成は国家賠償法、損失補償法(実定法上は「憲法29条」「土地収用法」)、行政手続法、行政不服審査法行政事件訴訟法について、逐条で説明を加えています。そこに、関連する最高裁判例・裁判例を一般論の部分だけ切り出してなるべくたくさん紹介する、というスタイル、ということができるでしょう。


この、条文にこだわる姿勢のおかげで、とっつきやすい、という印象をもちます。共著者の別の著書では、橋本博之「解説 改正行政事件訴訟法」(弘文堂・2004)に近いスタイルです。*3
さらに、常岡先生執筆部分の行政手続法・行政不服審査法にはフローチャートがついていたり、高木先生執筆部分の行政救済法の見取り図は大変わかりやすいもので、自分でもなんとなく理解していたつもりのことが、あまりにわかりやすく書かれているので、これを学部時代に読むことができる人たちが大変うらやましい、とも感じました。


ただ、判例紹介はやはり限界があり、一般論の部分しかないのでこの書き方では「こういう判例が位置づけられている」という限度にとどまります。もちろん、この点ははしがきでも触れられていて、

そこで、本書の使い方としては、その記述を「覚える」のではなく、判例教材や基本書を読むときのコンパスとしていただくようお願いしたい。(はしがきvp)

とあります。

とっかかりとして、概観として、調べるためのはじめの一歩の参考書

ということで、本書の位置づけは「平易な言葉で行政救済システムの概観をなすには最高の一冊」ということです。簡易な逐条解説本としても重宝しますし、なにより基本書一気読みというのはなかなかできないですが、この本は一気読みにも適し、全体を把握するためにとても重宝します。行政手続法の位置づけも、適切であるという印象を受けます。*4
*5
ただ、より詳しい検討をするには基本書、そして判例それ自体の検討が不可欠であって、そのためのあんちょことしては使えません。そこまでは企図されてはいないでしょうから、自分でやりましょう、ということです。(参考文献は少数ながらついています。)


ということで、判例の読み方について「百選だけ読んでおけばいい」などとは考えていない方行政法の基本書も持ってはいるが、自分では救済法部分が読みにくいという方に、非常にお勧めしたい副読本です。

*1:高木先生のファンなのです。

*2:ちなみに今年の春〜初夏は行政法関連の基本書・参考書・そして百選の改訂ラッシュであり、早くも財政状況が逼迫しそうです(苦笑)

*3:ちなみに、橋本先生はこの本への批判・再検討をまとめた「要説 行政訴訟」を出されています。もし「解説〜」をお持ちでないなら、「要説〜」か本書のどちらかを購入検討されることを強く薦めます。>同輩の皆さん

*4:この点、高木先生による著者の担当分担が見事でして、国家補償(国家賠償法・損失補償法)は高木先生、手続法・不服審査法は常岡先生、行政事件訴訟法は橋本・桜井先生となっています。手続法と不服審査法の記述がそろう、というのがポイント高いと思います。

*5:一人では手に負えない行訴は「2人で教科書の執筆された経験のある」2教授に、ということだそうです(笑←これについては突っ込み禁止ですよ)