COEシンポジウム

東京大学21世紀COEプログラム「国家と市場の相互関係におけるソフトロー」第6回シンポジウム「ソフトロー 対 ハードロー: 対立・補完・融合」に出席してきました。
http://d.hatena.ne.jp/Kaffeepause/20060202/1138876709のコメント欄に答えるべく・・・と思っていたら、既にRazさんがhttp://d.hatena.ne.jp/Raz/20060227/p5にてざっくりとかつ的確に説明されているので、ご参照ください。
私としても、後々ソフトロー研究などに収録されることが予想されるので、あまり細かくは書きません。以下、一学生が書いたメモであるということを了解した上でご参照ください。


 藤田報告は2つのパートに分かれ、前半はソフトローの分類論。規範形成主体が国家以外か国家か、国家のエンフォースメントがあるかないかで2×2=4つのカテゴリーに分類し、それぞれに研究すべき目標・問題点が異なる、というソフトロー研究総論とでも言うべきもので、後半はそれを踏まえて商慣習法を素材とした研究でした。
商慣習を裁判規範として取り込むことは、国家以外が形成した規範で国家はエンフォースしていなかったものについて、国家のエンフォースを認めることになります。そのことの是非を問う部分が議論の中心部分でした。(Razさんの紹介参照してください。)
また、商慣習の効率性の判断はできるのか、すべきなのか、できないなら裁判所はどう振舞うべきなのか、という視点も大きな位置を占めておりました。
 荒木報告は、努力義務規定が果たしている役割のひとつに、規制のための社会的合意が確立できずにいる場合の過渡的・規制猶予的な側面があることを、努力義務の類型論から実際のいくつかの例までを挙げたうえで主張するものでした。ここで、両角先生のコメントにおいて、スウェーデンの研究成果との比較が興味深い*1ものでした。それをうけ改めて荒木先生が強調したことには、やはり日本には全国的な労使交渉が存在しないことがあげられるとのこと。
また、差別の問題をソフトローで扱うことがそもそも適切か、という視点を、アメリカでの議論を踏まえながら指摘していました。
 増井報告は、予告タイトルの「実験」が気になっていたのですが、これは「事前照会に対する文書回答」が未知の問題に対応し、課税要件が実情にキャッチアップしていく機能があることをさすものでした。報告ではこの部分はむしろ後半であり、前半は通達についての議論。なぜ人々は「拘束力」ないはずの通達に従うのか、通達はどのような領域で用いられているのか、通達はどのように変化していくか、という3つの問いに、機能的考察をするというものでした。


個人的感想を以下に述べます。
まず、藤田報告について。
ソフトロー研究については漠然としたイメージしかもっていなかったので、藤田報告前半における分類論は参考になりました。そして、後半部は裁判に出てくる情報と当事者の知りえる情報(私なりに言い換えると、裁判で立証できる・片方当事者の利益にかかわる情報と、当事者が知ってはいるものの、裁判で立証しえないか、主張することにそもそも利益を感じない情報か。)の違いがあることを踏まえた検討をしている点が興味深いものでした。逆に言えばそのような情報乖離がなかったり、あったりする場合が「商慣習」というものを相手にしている場合でもあるわけで、それをひとくくりにしてはならない、という主張はもっともです。
次に、荒木報告について。
荒木先生の授業を受けたものとしては、主張そのものについては講義で伺っていた*2ので、むしろコメンターとのやり取りが面白かったですね。対外的潮流という点に注目していた荒木先生が、両角先生のコメントの中にあったスウェーデンにおけるEU法(という外圧)を受けた変化を見逃さなかった点が興味深いです。
最後に、増井報告について。
名宛人ではない私人が拘束されるはずはないのに、なぜか外部的効果を持つことをインセンティブを考察することで説明していた点は異論はないのですが、拘束力が無いから本来は不服審査、審判、そして裁判で争えることを説明するくだりで、ご本人も「あくまで机上の例ですが」と断っていたように、さすがに「フリンジ・ベネフィットの非課税領域」を作っている通達を争う、という仮定は・・・より有利な規範でよい*3と争うというのはいくらなんでもなあ、という感じがしました。
もちろん、増井報告においてフリンジベネフィットについての通達が法律上の建前とは大きく乖離しているという点で良い具体例であることはわかるのですが、争おうと思う場合は普通不利益効果をもつ法の適用について、事実認定の指針を定めた通達である場合が想定されているから、「コストがかかるばっかりだからそもそも争わない」というインセンティブ論の筋がちょっとだけ悪くなってしまうんでは・・・もっとも、増井先生の議論はこの場合でも十分当てはまるのですけども。
フリンジベネフィットの例で扱ったのはあくまで報告を短くするためだとは思うのですが、そのために「裁判所もエンフォースしているといえるのでは」という質問が出てしまったのではないかな、と思いながらも黙っていました。


ともあれ、「通達の名宛人でない私人が従っている」という状態がなぜ起こるのかを機能的に考察した点は、通達を争う裁判をどう考えていくかという問題と大きくかかわると思います。・・・はい、そうです、予告です。今日は大分こんがらがっているので、もうちょっとだけ検討させてください。>フローズンツナフィレ

*1:スウェーデンにおいては、努力義務規定が用いられることは例外的であり、多くは全国規模の労使団体によって合意形成されていく、とのこと。

*2:むしろ、これが私が「ソフトロー」という言葉を知るきっかけであった。

*3:挙げていた例は、「10年程度の勤続」とあるところ、「7年ではだめなのか?」と争う場合。