君が代起立斉唱義務不存在確認等請求事件第1審

式での起立・斉唱定めた都教委通達は「違憲」 東京地裁
2006年 9月21日 (木) 22:52


 入学式や卒業式で日の丸に向かっての起立や君が代の斉唱を強要するのは不当だとして、東京都立の高校や養護学校などの教職員が都教委などを相手に、起立や斉唱義務がないことの確認などを求めた訴訟の判決が21日、東京地裁であった。難波孝一裁判長は、違反者を処分するとした都教委の通達や職務命令は「少数者の思想・良心の自由を侵害する」として違憲・違法と判断。起立、斉唱義務がないことを確認し、違反者の処分を禁止した。さらに、401人の原告全員に1人3万円の慰謝料を支払うよう都に命じた。都側は控訴する方針。
(後略)

asahicomより。*1


これを読んで「あっ行政法第二部」と思った人は私と同じ講義・試験を受けた方ですね。
これを読んで「あっ某先生の助手論文」と思った人もいるかもしれません。
他のブログ等では実体判断の部分、とりわけ憲法論の部分が注目されています。もちろんでしょう。でもそれと同じくらい訴訟法的にも重要な問題です。
それを踏まえて、気になった記事の該当部分をあげると・・・(以下、強調は引用者による。)

訴訟法上の問題

今回の裁判の特徴は、職務命令や処分が出る前に、起立や斉唱などの義務自体がないことの確認を求めた点だ。都教委は「具体的な権利侵害がない」と門前払いを求めたが、判決は「回復しがたい重大な損害を被る恐れがある」として、訴えは適法と判断した。

これは行政事件訴訟法4条後段の公法上の(実質的)当事者訴訟ですよね。相手は都ですから。
それも、差止め代替として使われたケースです。
上記部分、訴えの利益の争いとも本案判断の争いとも読めるんですが、結局地裁の判断は両方OK,ということですね。
具体的な権利侵害がない、という主張に対し、裁判所の応答は「回復しがたい重大な損害」。この文言ですが、行訴法3条7項の差止めの訴えの実体要件である37条の4第1項の「重大な訴え」よりも「回復しがたい」という修飾句がついているのですが、これがたんに損害の性質についていっているだけなのか、それとも「重大な訴え」よりも重い要件としてみているのかはこの記事の引用だけではなんともいえないですね。(もっとも、判決全文を見ても何もいえないかもしれないんですが。)


ちなみに「そんなに細かい文言に注目しなくても」とおっしゃる方がいるかもしれないですが、行政事件訴訟法判例・改正の歴史においては差止めの訴えについて、損害のレベルの議論が不可避だったことを踏まえれば、実質的には差止めの性質を持つ本件訴えについても、このような分析手法は有効だと考えます。

裁量判断?

 通達について「教育の自主性を侵害し、一方的な理論や観念を生徒に教え込むことに等しい」と指摘。国旗掲揚の方法まで指示するなど「必要で合理的な大綱的な基準を逸脱した」として、校長への「不当な支配」にあたるとした。

不当な支配、の判断についての部分ですが、構成としては都教委の裁量逸脱と考えているのでしょうか。これは本文を見ないとわからないですが。

法の趣旨

 その上で、起立や斉唱の強要は思想・良心の自由を保障する憲法19条に違反すると判断。国旗・国歌は自然に定着させるのが国旗・国歌法の趣旨であることにも照らし、教職員への職務命令は違法とした。

国旗・国歌法の趣旨、ですか。
はてさて、そんな規定あったかな、と思って法令データ提供システム*2を検索して条文を見てみると・・・

国旗及び国歌に関する法律
(平成十一年八月十三日法律第百二十七号)

(国旗)
第一条
 国旗は、日章旗とする。
2 日章旗の制式は、別記第一のとおりとする。


(国歌)
第二条
 国歌は、君が代とする。
2 君が代の歌詞及び楽曲は、別記第二のとおりとする。

以上。
あれっ、そんなこと書いてないよ。ちなみに、別記はいつもの日の丸と、君が代の楽譜が載っているだけです。
逆に、それしか書いてない(例えば、「学校教育においても、国を愛する心を醸成するため、利用する」とかなんちゃらかんちゃら。これは適当に考えた文なので、他意はありません。)ことを考えると、自然に定着させる趣旨になるのかもしれないんですが、ここは争いになりそうな気がします。自然に定着できないからわざわざ制定した、とも考えられるわけでして。
もっとも、この法律の憲法違反は主張するでしょうから、その点も気になりますが、明文になってない「趣旨」の解釈でこの法律自体を違憲にするのは無理でしょうから、普通に通達の違法性・違憲性を争うことになるでしょうね、2審でも。*3


判決全文を入手したら、また追記するかもしれません。


追記:今、紙ベースで東京新聞の掲載した要旨を手に入れ、上記のエントリの一部を改変する必要を感じましたが、念のため、判決全文が手に入るまではこれ以上のコメントを避けたいと思います。さしあたり、その程度のレベルのメモ(脊髄反射的エントリ)*4と了解ください。

*1:http://www.asahi.com/national/update/0921/TKY200609210287.html

*2:http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

*3:あえて、表題を第1審としたのは、最高裁まで行くかなあという期待がこもっています。関係各位には申し訳ないですが、一法学徒としては興味のあるところです。

*4:その割にはちょっとタイミングが遅いけど